発表者抄録

招待講演2:避難所等での避難生活の質の確保

〜「場所(避難所)の支援」から「人(避難者等)の支援」へ〜

        水野忠幸 内閣府防災担当参事官(避難生活担当) 

 

【趣旨】日本は災害大国であり、災害が起こらないことを願っていますが、

もし災害が発生した時のことを想定して国・県・市においてはその準備(事前防災)を進めており、防災庁設置に向けての検討も進めています。

現在の大きな課題は、避難所等における、よりよい避難生活環境を確保することにあります。内閣府においては、今までの「場所(避難所)の支援」から「人(避難者等)の支援」へ変えていくことを目指しています。

 

【ポイント】よりよい避難生活環境のポイントとしてTKB48が注目されており、内閣府の取組指針・ガイドラインを昨年12月に改正するとともに新規予算も確保しています。その中でも、トイレの確保は、生理現象であり本人の意思とは関係ないものであり、重要な点であり、携帯トイレや簡易トイレだけでなく、トイレカーやトイレトレーラー、快適トイレも広まりつつあります。

食事も大事です。栄養バランスがあり、温かい食事をお願いしたいです。

キッチン資機材があれば、一度に数百食を調理することができ、セントラルキッチン方式として、近隣の避難所に配ることも可能になってきます。

ベッドは健康面への配慮の観点からも必要です。段ボールベッドやエアーベッド等の簡易ベッドを、避難所設置当初から展開をお願いします。

 

【今後の方向性】内閣府においては災害対策基本法・災害救助法に、福祉サービスを位置付ける法案を準備しています。厚生労働省と連携して、在宅避難者へのDWATの派遣を中心に、福祉的支援を積極的に行っていきますので、是非皆様のご協力をお願いします。避難所関係については、まだまだ課題は多いと思いますので、皆様のご意見をいただければと思います。よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

災害時協定が生かされた段ボールベッド納入

 

セッツカートン株式会社 越前工場

営業課 大川 拓也

 

【はじめに】

2024年1月1日に発生した能登半島地震の後、避難所への段ボールベッド設置が遅れていた。当社は能登町と防災協定を締結していたため要請があり、延べ100人以上の人員で段ボールベッドを納品、組立て、設置した。協定が生かされた段ボールベッド納入について当社の視点より、段ボールメーカー目線で活動実績並びに今後の課題を考察。

 

【実績、結果】

防災協定締結先である能登町からの要請により1月16日~24日にかけて905床の段ボールベッドを納品、組立て、設置。能登町、コーディネーター及び当社の相互関係により事前調整、連携が取れ、短期間、短時間での段ボールベッド設置を可能とした。交通渋滞、道路の亀裂、陥没による悪条件が重なり1日数時間しか現地で作業ができなかったが、本社並びに近隣の工場からの応援もあり、作業時間の短さを作業者人数で補うことができた。余震、道路状況による事故リスク、長時間移動による従業員への負担はあったが問題無く計画通りに設置を終えた。しかしながら防災協定を締結していない他の地域ではベッドの設置が遅れていたが、能登町と同様な活動はできなかった。

 

【考察】

防災協定がなければ何もできない仕組みの改善が必要であると同時に、メーカーとして防災協定先を増やす活動を引き続き続ける。業界内での経験者が少ない為、当社と同じ活動(組立て、設置)ができる会社が少ない、経験豊富なコーディネーターとの連携及び育成が不可欠となる。災害におけるリスクへの対処及び従業員への負担軽減のため、社内の仕組み作りも課題である。

 

 

 

支援保健師による避難所環境整備

石巻市保健福祉部 保健師 八森かず美

 

【報告概略】

能登半島地震の際、石巻市では羽咋郡志賀町へ1月10日~26日までの17日間にわたり保健師の派遣を実施した。保健師2名、事務職2名を1班として計3班が交代制で活動を行った。

 

私は、第2班として1月15日から志賀町に入り、志賀町職員の方々や他自治体から派遣された職員の方、様々な医療チームの方々と共に、避難所アセスメントと環境整備を中心に活動した。その中で、多くの避難者がおり環境整備に課題を抱えている避難所があった。

 

志賀町職員の方や避難所管理を任されている派遣職員の方も対応に苦慮しているという第1班からの申し送りを受けたため、その時点で解決すべき課題と実施可能な対応策を一緒に考え実行することとした。

 

大規模な避難所環境整備に取り掛かる際には、同時期に能登地域で活動していた石巻赤十字病院の医師にコーディネートを依頼した。志賀町職員の方々、赤十字救護班など複数の医療チームの協力により、避難者の方全員の居室を土足禁止とし、段ボールベッドへの全置換を行うことができた。

 

13年前には東日本大震災の被災自治体職員として多くの方々から支援を受けながら活動した私が、今回は支援する側として活動することができた。支援する立場となり、改めて支援する側の姿勢や支援提供のあり方、活動の在り方を考えることができた。

 

また、東日本大震災後から石巻市において、有事の際にスムーズに連携が取れることを目指し災害研修、災害対応訓練等を共に取り組んできたことにより、今回の能登半島での活動の際にも石巻赤十字病院の災害医療コーディネーターともすぐに連携して取り組むことができた。日頃からの地元他機関との連携がいかに重要かを実感できる機会となった。

 

 

【基調講演】酷暑期の災害発生・避難生活での熱中症を想定内として

中京大学 松本孝朗

 

2024年7月27-28日(大阪八尾市)の最高気温は35.8℃(平年値33.2℃を2.6℃超過)という「真の酷暑」の中で「酷暑期避難所演習」(電気・水道あり、エアコンなしの体育館での宿泊体験)が行われた。当日の最高WBGTは32.8℃と熱中症警戒アラート「WBGT33℃」レベルにほぼ相当した。筆者の居住する愛知県ではエアコンなしでは眠れない夜が続いていた。

 

本演習に熱中症予防の専門家として参加した上で得た考察: 酷暑期に災害が起こった場合、①エアコン(と電気)なしには暑さを避ける対策は基本的に困難。②日中、避難所外(自宅や市街地)へ出て、酷暑の炎天下で復旧作業(身体活動)を行うであろう若年成人の熱中症対策:文字通り、酷暑下の肉体労働であり、危険。対策は難しい。救急車や救急医療体制が稼働していない可能性もあり。③日中も避難所内に留まる人たちの熱中症対策:夜も暑さで寝苦しい、日中の避難所は高温となるため、多くの人にとって、特に高齢者にとっては危険。エアコン(と電気)なしには暑さを避ける対策は困難。

 

【対策】・水道が利用可能な場合には、水シャワー(お湯ではなく)での身体冷却(水浴び)が有効な対策となり得る。学校プールのシャワー室。 ・夏季の災害に備え、スポーツドリンク(塩分を含む)の備蓄も考慮すべき。避難者自身によるドリンクの持参も推奨する。 ・避難所学会が提唱する「TKB48」が夏季の避難所でも大原則。

 

過去の大規模災害が“酷暑期を避けて”生じていたことは幸運としか言いようがない。演習時のような「酷暑」の中、東京・大阪で災害が発生し、多くの人が避難所生活を強いられる事態を想定した対策が必要であろう。

 

 

 

 

 

 

「避難所と季節性」酷暑期避難所 抄録

神戸女子大学 平田耕造

 

「手のひら(AVA)冷却の有効性について」

酷暑期の避難所で暑さを避けて健康を維持するのに有効な手のひら冷却を提案したい。暑熱環境において体内(核心部)の熱を体表面へ移動し、熱放散を促すには皮膚血流量の増加が重要である。皮膚の血流には著しい部位差が知られており、特に四肢部と体幹部ではその差が大きいといわれている。

室温30℃下で両手・両腕を露出するノースリーブ服、または同一素材で同一面積の体幹部(背・胸・腹)露出服のいずれかを着用した被験者について、60分熱負荷時の体温を比べた。60分目の体温上昇は両手・両腕を露出するノースリーブ服の方が、体幹部露出服よりも0.26℃も低く抑えられた。この結果は、露出した上肢は高い熱放散機能を備えていることが示唆された。

第1に腕や手の形は容積に対する表面積の比が大きいこと。体幹部を1とすると腕は5倍、手は10倍、手指は22倍にもなり、皮膚から効率よく熱が放散される。動物でもウサギの耳、ネズミやカンガルーの尻尾も細長く熱放散に適している。

第2に手・足の皮膚には動静脈吻合(AVA: Arteriovenous Anastomoses)があり、毛細血管の手前にある太い動脈と静脈を繋ぎ、開閉により体温の調節をする。手には1㎝当たり100〜150個、指先には500~600個ものAVAがある。この血管が拡張したときの直径は、毛細血管に比べて約10倍となるため、同一条件では流体力学の法則により血流量が1万倍も流れるため、大量の熱が核心部からAVAを通過して体外へ放散される。

第3にAVAを通過した静脈血は多量の熱を保有しており、表面積:容積比が大きい腕部の表在性皮静脈から熱を有効に放散しつつ心臓へ戻る。

以上から、水浸漬等を利用した手のひら冷却は体温の上昇を抑制し、夏の避難所でも手軽で有効な身体冷却法である。

 

 

 

21日の懇親会について

18時〜20時30分 50名

#702 CAFE&DINER なんばパークス店

https://tabelog.com/osaka/A2701/A270202/27079121/